2020年6月20日

雇用保険とは?役割や加入条件、手続きなど経営者が知っておくべき基礎知識

労働者の雇い主である経営者は、加入対象となっている労働者を「雇用保険」に加入させる義務があります。また、経営者には、雇用保険の各種届出を提出する必要があります。では、雇い主はどのように雇用保険手続きを進めていけばよいのでしょうか?この記事では、雇用保険制度の役割や加入条件、手当の種類、手続き方法など経営者が知っておくべき雇用保険の基礎知識について詳しく解説していきます。

雇用保険とは?

雇用保険とは、日本政府が行う社会保険制度のひとつで、政府が管掌する強制保険制度です。雇用保険と聞くと、おそらく多くの方が「失業給付」のことをイメージするのではないでしょうか?しかし、雇用保険の給付にはいくつかの種類があります。大きく4つの給付の種類に分類されており、各給付は各種手当で分類されています。

つまり、雇用保険には4つの役割、「求職者給付」「就職促進給付」「教育訓練給付」「雇用継続給付」があるということです。では、それぞれの給付の役割についてみていきましょう。

求職者給付

求職者給付とは、定年や解雇などを理由に失業したときに給付される手当のことです。失業期間中の労働者の安定した生活を保障し、再就職を支援することを目的としています。一般的に知られている失業手当も、求職者給付に該当します。なお、求職者給付は、次のように分類されています。

・基本手当
基本手当とは、失業保険として知られている給付金のことです。雇用保険に加入していた労働者が定年、倒産、契約期間の満了などで離職したときに給付されます。失業中でも安定した生活を送りながら転職活動を行い、1日でも早く再就職できるための支援を目的としています。

ただし、雇用保険に加入していても、すべての被保険者に基本手当が支給されるわけではなく、一定の受給資格を満たし、ハローワークに求職を申し込んでいる場合のみに基本手当が支給されます。また、基本手当が支給される期間は、離職の理由や状況によって異なります。

・傷病手当
傷病手当とは、公共職業安定所で求職の手続きをした後、けがや病気などの傷病で15日以上継続して働くことが出来なかったときに支給される給付金です。

・技能習得手当
技能習得手当とは、基本手当受給資格者が指定の公共職業訓練を受ける場合、基本手当とは別に支給される手当のことです。

・寄宿手当
公共職業訓練を受けるために寄宿した場合、支給される手当のことです。

・特例一時金
特例一時金とは、季節的に雇用されていた労働者や短期雇用特例被保険者が失業したときに給付される手当のことです。

・日雇労働求職者給付金
日雇労働求職者給付金とは、日雇労働被保険者が失業したときに給付される手当のことです。

就職促進給付

就職促進給付とは、労働者の再就職の支援や再就職後も安定した就職ができることを目的とした給付金です。次のような手当で分類されています。

・再就職手当
再就職手当とは、基本手当の受給資格者が、所定給付日数が3分の1以上残っている状態で再就職をするなど、一定の要件を満たしている場合に支払われる手当です。

・就業手当
就業手当とは、再就職はしたが、雇用形態が再就職手当の対象でない雇用形態で就職したときに支給される手当です。

・就業促進定着手当
就業促進定着手当とは、再就職者手当の受給者が6ヶ月以上、前職よりも低い給与で雇用されているときに適用される手当です。

・広域求職活動費
広域求職活動費とは、ハローワークの紹介を通じて遠方の企業へ見学や面接に赴いた際にかかった交通費や宿泊費などに支給される手当のことです。なお、遠方とは、往復の距離が200キロメートル以上のことを指しています。

・常用就職支度手当
常用就職支度手当とは、障害などで就職することが難しい基本手当受給資格者が安定した職業に就職したときに支給される手当のことです。

・求職活動関係役務利用費
求職活動関係役務利用費とは、受給資格者が求人している事業所へ面接や教育訓練を受講するために、子どもの保育などのサービスを利用した場合に、サービス費用の一部を負担する手当のことです。

教育訓練給付

教育訓練給付とは、仕事のスキルアップや資格取得などを目的とした教育関連にかかった費用の一部が給付される手当です。次のような種類があります。

・一般教育訓練給付金
一般教育訓練給付金は、一定条件を満たしていなら、教育訓練経費の20%が給付されます。なお、上限は10万円となっています。

・専門教育訓練給付金
専門教育訓練給付金は、一定条件を満たしているなら、教育訓練経費の50%が給付されます。なお、上限は毎年40万円、期間は最大3年なので120万円までの給付が認められています。

雇用継続給付

雇用継続給付とは、高齢者の就業促進や、介護や育児などの休業の際に支給される給付金のことです。代表的な手当には、次のようなものがあります。

・育児休業給付
育児休業給付とは、被保険者が1歳未満の子どもの世話をするために育児休暇をとった際に支払われる給付金のことです。なお、子どもを保育所にいれない場合は、1歳6ヶ月~2歳までとなります。

・高年齢雇用継続基本給付金の受給資格
高年齢雇用継続基本給付金とは、高年齢者の就業意欲を促進したり奨励したりする制度です。一定の要件を満たしている場合に適用されます。

・介護休業給付
介護休業給付とは、家族を介護するために休業した被保険者が、一定の要件を満たしているときに支給される手当のことです。

雇用保険の「被保険者」の定義

雇用保険の「被保険者」とは、主に4種類の形態で分類されています。

①一般被保険者
一般被保険者とは、下記の②~④に該当しない正社員、パート、アルバイトなどの形態で雇用されている労働者が該当します。

②高年齢被保険者
高年齢被保険者とは、65歳以上の高齢労働者が該当します。

③短期雇用特例被保険者
短期雇用特例被保険者とは、期間限定労働者として雇用され、雇用契約が4ヶ月~1年未満で週所定労働時間が30時間以上の労働時間が該当します。

④日雇労働被保険者
日雇労働被保険者とは、日雇いで雇用されている、もしくは30日間以内に期間限定で雇用されている労働者が該当します。

雇用保険の加入条件

上記の雇用保険の「被保険者」の定義を参考にしながら、さらに詳しく雇用保険の加入条件についてみていきましょう。雇用保険は、労働者を雇用する際に原則として加入することが義務付けられていますが、すべての労働者に加入資格があるわけではありません。加入資格のある労働者とは、次の2つの要件を満たしている労働者すべてです。

①31日以上にわたって雇用される見込みがあること
31日以上にわたって雇用される見込みとは、31日間以上雇用が継続しないことが明確であるケースを除いたのもすべてが該当します。例えば、雇用契約をする際に、31日未満で雇い止めする旨が記載されていなければ、この条件に該当することになります。

また、雇用契約の更新規定が記載されていなくても、実際に31日以上雇用された実績を労働者が持っている場合も、この条件に該当します。

②1週間あたり、20時間以上の勤務時間があること
1週間あたり20時間以上の勤務時間があるということには、所定労働時間が週に20時間以上あるという意味です。つまり、一時的に週に20時間以上働いたとしても、契約上の所定時間が20時間未満の場合は該当しません。

これら2つの加入条件は、企業の規模や業種、正社員やパート・アルバイトなどの雇用形態を問わず、すべての労働者に該当します。

雇用保険の被保険者にならない人

雇用保険の被保険者になれない人もいるのでしょうか?結論から述べるなら、被保険者にならない人もいます。そもそも「労働者」とは、使用される、つまり、労働の対価として報酬を受け取る人のことです。指揮監督下の労働であり、必ず雇用主がいます。したがって、労働者性のない人は、雇用保険の被保険者にはなりません。例えば、個人経営をしている農林水産業の一部は、一定の期間のみ雇用される季節労働者などを雇用する場合は任意適用となるため、被保険者にならないこともあります。

また、取締役や役員や監査役などは「労働者」ではなく、「使用者」として扱われるため、雇用保険は適用対象外となります。事業主と同居する親族も、雇用保険は適用対象外となりますが、一定の要件を満たしている場合は、雇用保険に加入することができます。(なお、要件とは、①事業主の命令に従っていることが明確であること、②事業所内の他の労働者と同じように賃金が支払われていること、③取締役や役員などの事業主と同じ立場にいないこと、の3つです)

その他にも、雇用保険の被保険者にならない人には、協同組合などの社団もしくは財団の役員、企業組合の組合員、有限責任事業組合の組合員、農業組合法人等の団体の構成員やその家族など、生命保険会社の外務員など、旅館・料理店・飲食店などの接客業や娯楽業の事業に雇用されている人などが挙げられます。

被保険者の対象・対象外の判断が必要なケース

雇用保険の被保険者資格があるのか、それとも加入資格がないのかの判断が必要となるケースもあります。それは、次のような場面に該当する場合です。

・2ヵ所以上の雇用保険適用事業所で雇用されている労働者
2ヵ所以上の雇用保険適用事業所に雇用されている労働者は、原則として主たる賃金を受け取っている事業所で被保険者になる必要があります。

・長期間にわたって欠勤している労働者
長期間にわたって労働者が欠勤しているとしても、雇用関係が続いているなら、賃金の支払い受取りを問わず、原則として被保険者になります。それには国外就労者、在日外国人、外国人技能実習生などが挙げられます。被保険者になるかどうかを判断するのが難しい場合は、管轄地区のハローワークに相談されることをおすすめします。

雇用保険の「適用事業所」と「暫定任意適用事業」の違い

雇用保険の「適用事業所」は、企業の規模や業種を問わず、労働者を一人でも雇用していれば雇用保険に加入する義務が発生します。これには保険関係が成立する事業すべてが該当し、事業所側と労働者の双方で保険料を負担する必要があります。

一方、雇用保険の「暫定任意適用事業」とは、常時5人未満の労働者を雇用する個人事業主の農林水産業の中で、一定の農林業、畜産業、水産業、養蚕業などが該当します。保険料の一部は労働者が負担するしくみになっているため、暫定任意適用事業が雇用保険を成立させるためには、その事業に従事している労働者の2分の1以上の同意を得る必要があります。

同意を得ることができた後、事業所側は厚生労働大臣に雇用保険加入の申請手続きをします。厚生労働大臣から認可を受けた日に雇用保険関係が成立します。

事業主がすべき雇用保険の各種届出

雇用保険の管理運営をしているのは、厚生労働省です。したがって、雇用保険の申請や給付などの手続きは、全国のハローワーク(公共職業安定所)で行います。雇用主は、労働者を初めて雇用したときから雇用者が離職するときまで、雇用保険に関してさまざまな手続きをしなければいけません。行うべき手続きには次のようなものがあります。

労働者を初めて雇用することになったとき

雇用保険の加入対象者となる労働者を初めて雇用することになった場合は、保険関係成立の手続きの後に、以下の書類を提出する必要があります。

・「事業所設置届」と「雇用保険適用事業所設置届」
事業所設置届と雇用保険適用事業所設置届とは、事業所が労働者を雇用した日の翌日から10日以内に管轄地区のハローワークへ提出することが義務付けられている書類です。事業所は一人でも労働者を雇用すると、雇用保険適用事業所となり雇用保険の適用義務が生じます。事業所設置届と雇用保険適用事業所設置届を提出する際には、次の書類も一緒に提出する必要があります。

それは「労働保険の保険関係成立届」「会社の謄本」「事業所などの賃貸契約書」「事業の名称・所在地・事業内容が確認できる書類」「監督官庁の許認可証(飲食業・不動産業・建設業など)」「登録証(士業など)税務関係の書類(事業開始届や確定申告書など)」「社会保険関係届書控」「取引先発行の契約書・請求書・見積書」「公共料金の領収書」「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」「被保険者証」などです。

その後、労働者を新たに雇用することになったとき

その後、労働者を新たに雇用することになった場合は、その度に以下の書類を提出することが義務付けられています。

・「雇用保険被保険者資格取得届」
雇用保険被保険者資格取得届とは、雇用主が雇用保険対象となる労働者を新たに雇用したときに、必ず提出しなければならない書類です。労働者が被保険者となった日、つまり入社した日の翌月10日までに、管轄地区のハローワークへ提出することが義務となっています。

書類提出後、労働者が雇用保険の加入手続きをしたことを証明する、雇用保険被保険者証と雇用保険資格取得確認通知書(被保険者通知用)が交付されます。通知書は労働者本人が確認することを目的としているので、加入した労働者に交付します。

労働者が離職したとき

雇用している労働者が退職、もしくは死亡などを理由に雇用保険の非保険資格を失ったとき、雇用主には手続きが必要となります。その際、以下の書類を用意する必要があります。

・「雇用保険被保険者資格喪失届」
雇用保険被保険者資格喪失とは、退職から基本手当を受給するために必要となる書類のひとつです。この書類は、雇用保険の被保険者が事業所を退職したことを証明するものです。事業所側が作成し、労働者が雇用保険の被保険者でなくなった日の翌日から10日以内に、ハローワークへ提出することが義務付けられています。

・「離職票」
離職票とは、退職者が受給するために必要となる書類です。基本手当を受給する場合は、退職する労働者本人が事業所側に離職票の交付を依頼する必要があります。なお、転職先が決まっている場合は、基本手当を受給することはできないため、離職票の手続きは不要となります。

・「雇用保険被保険者離職証明書」
雇用保険被保険者離職証明書とは、基本手当の日額を決定する際に必要となる在職時の賃金額を証明するための書類です。退職する労働者が「離職票」の交付を希望した場合、事業所側は「雇用保険被保険者離職証明書」を作成し、「雇用保険被保険者資格喪失届」と一緒にハローワークへ提出します。雇用保険の基本手当を受給しない退職者の場合は、雇用保険被保険者離職証明書の作成は不要となります。

なお、事業所側が作成する雇用保険被保険者離職証明書の離職理由と、退職者の離職理由が異なる場合は、ハローワークで事実関係の調査を行います。調査には確認書類として、賃金台帳、労働者名簿、出勤簿(タイムカードなど)の提出が求められます。

雇用保険加入義務を怠ったらどうなる?

では、雇用保険適用事業所が雇用保険加入義務を怠った場合は、どうなるのでしょうか?雇用保険は、労働者の生活と安定の再就職の促進を目的とした国が設けた制度です。そのため、雇用保険適用事業所は、加入資格のある労働者を必ず雇用保険に加入させることが義務となっています。そのため、事業所側がこの義務を怠った場合は、ペナルティが発生します。

雇用保険法によると、「事業所側が被保険者資格を有する労働者を雇用保険に加入させなかったときは、懲役6ヵ月、もしくは罰金30万円が科せられる」と定められています。

まとめ

雇用保険は、労働者の生活と安定した再就職の促進を支援する制度です。加入資格のある労働者を必ず加入させることは義務ですので、雇用保険適用事業所は必ずその義務を守るようにしましょう。

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